2015年11月10日火曜日

生き抜く勇気

 ――――おれは好まない。
 国のために、藩のため主人のため、また愛する者のために、自らすすんで死ぬ、ということは、侍の道徳としてだけつくられたものではなく、人間感情のもっとも純粋な燃焼の一つとして存在して来たし、今後も存在することだろう。――――だがおれは好まない。甲斐はそっと頭を振った。
 たとえそれに意味があったとしても、できることなら「死」は避けるほうがいい。そういう死には犠牲の壮烈と美しさがあるかもしれないが、それでもなお、生き抜いてゆくことには、はるかに及ばないだろう。
 (山本周五郎『樅の木は残った』より)

そうなんですよね。僕も好みません。

主人公の原田甲斐は、結局、その「好まない死にかた」を選択せざるを得ないのですが、「壮烈さ」や「美しさ」に感嘆するあまりに、その価値観を至上の位置に据えて、自分や他者の命を軽んじ、ひいては死さえ強要してしまうことがあるということを、心に刻むべきだと思います。
死よりも生を択ぶほうが、ずっと勇気を必要とし、困難なときがあると思います。
すべての「生きもの」の基本的な使命は、「生き抜くこと」に他ならない。
死を「美しさ」に荘厳し、命のうえになにやら価値を置こうと策動する思想、教え、価値観には、あくまで「NO」を叫び続ける自分でいたいと思います。


0 件のコメント:

コメントを投稿